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2024/09/04

シングル・プレーン・ゴルフ

皆さんはモー・ノーマンというゴルファーを御存じですか?ノーマンと言っても、ホワイトシャークと言われたオーストラリアのグレッグ・ノーマンは大変有名ですが、モー・ノーマンと言う名前を聞いたことがある方はゴルフ好きの中でもあまりいないかも知れません。

モー・ノーマンは60~70年代にカナダツアーで活躍したプレイヤーですが、当時のPGAの名だたるプレイヤー達からも、ことボールを真っすぐ、正確に打つことに関してはモー・ノーマンの右に出る者はいないと一目置かれる存在だったようです。リー・トレビノは彼の事を「史上最高のボールストライカー」と称賛していました。またサム・スニードは「ゴルフ界で最高の腕を持ったプレイヤーだ」と認めていたそうです。タイガー・ウッズでさえ「ゴルフスウィングの理論を構築したプレイヤーはベン・ホーガンとモ―・ノーマンだけだ」と言っています。

モー・ノーマンは1929年にカナダに生まれで、1959年からアメリカのPGAツアーに参戦しましたが、小さいころ自閉症だった事も影響してアメリカでのツアー生活になじめず(何人かのプロからいじめがあったと言われています)、わずか27試合でアメリカ―のツアーから撤退しました。その後、カナダに戻ってからはツアー通算55勝の大活躍。2004年に75歳でなくなるまで、ホールインワンを17回達成して、33のコースでコースレコードを記録したそうです。62歳の時には59で回って当時世界最年少のエイジシューターになりました。

 モー・ノーマンのスウィングの最大の特徴は、いわゆるシングル・プレーン・スウィングと呼ばれているスウィングです。どういったスウィングかと言うと、クラブが作る面がアドレスの時とインパクトの時で同じ一つ(シングル)の面(プレーン)で振るスウィングの事です。一般的な従来のスウィング理論では、肩から腕をだらんと垂らしたところでクラブをグリップするとされています。このアドレスだと、ややハンドダウン気味になって、構えた時に自然とコックが入った状態(左手首が親指側に折れた状態)になります。インパクト時にもこのコックを保持したままインパクト出来れば、クラブシャフトはアドレスと同じプレーンに戻りシングル・プレーンでスウィングをする事になりますが、殆どの人はインパクト時にはにコックを開放している為、アドレスの手首の位置よりも手首が浮き上がった状態でインパクトを迎える事になります。その結果、アドレス時のシャフトのプレーンよりインパクト時のシャフトプレーンは地面に対して5°~10°程度立った状態になります。アドレスとインパクトでシャフトの位置が違うのを調整する為には、腰を左に回転させながら下半身は下から上へ、上半身は上から下へ動かすと言った複雑な動きが必要になってきます。この動きは複雑なだけでなく、上半身と下半身が反対側に動く為、上半身と下半身を繋ぐ腰に大きな負荷がかかり、腰を痛める原因にもなるのです。

 一方、シングル・プレーン・スウィングでは、シャフトの位置は、まさしく「アドレスはインパクトの再現」で、初めから左腕とクラブシャフトが一直線になるようにハンドアップに構えるので、アドレス時とインパクト時のシャフトのプレーンが同じになり、構えたところにシャフトを戻すだけという非常にシンプルで、シンプルが故に再現性の高いスウィングになります。また、何と言っても腰にストレスのかかる動きをしないので体に優しく、「一年でも長く元気にゴルフを楽しみたい」と思っている私の様なアマチュアのシニアゴルファーにはピッタリのスウィングです。また、リンクの動画https://www.youtube.com/watch?v=r5LEelOEbQg&t=52s を見て頂ければわかりますが、モー・ノーマンはアスリートと言う感じからは程遠いズングリムックリのオジサン体形の人なので、私の様なお腹が出たオジさんにも、非常に親和性が高く親しみが持てるスウィングです。「マキロイや松山のスウィングの真似は無理でも、モー・ノーマンの真似なら出来るのでは?」と思わせてくれます。

リンクのビデオでモー・ノーマンが自分のスウィングの master ove (最も重要な動き)としてバーティカルドロップ(vertical drop=垂直落下)とホリゾンタルタグ(horizontal tug=水平曳き)と答えています。バーディカルドロップとは切り返しでヘッドを背中の方に垂直に落下させる動きです。モー・ノーマンは切り返しで左腕を内旋、右腕を外旋させて、左腕を右腕より高い位置に持ってくる事によってクラブヘッドが背中の後ろに垂直に落下すると言っています。実際のクラブヘッドの動きは垂直に背中の後ろに落ちるわけではないですが、あくまでモー・ノーマンがそう感じていると言う事です。落下したクラブヘッドは常にグリップよりも下に位置すると言っていますが、これもモー・ノーマンがそう感じているだけで、実際の動きとは違います。

次にホリゾンタルタグですがタグ(tug)というのはタグ・ボート(曳船)のタグで「曳く」と言う意味です。バーティカルドロップを行った後に、グリップエンドを目標に向けてグリップを地面から水平に動かしてクラブヘッドを曳くと言うイメージです。これもまた、実際には水平に動いてはいませんが、モー・ノーマンの感覚的には水平に曳いていると言う事なのでしょう。

バーティカルドロップにしてもホリゾンタルにしてもモー・ノーマンが感じている動きは実際の動きをかなり誇張した動きです。タイガー・ウッズも以前、前傾を維持するドリルでおしりを極端に突き出して素振りをしていたのを覚えている方もいらっしゃると思いますが、ゴルフのショットは始動からフィニッシュまで2秒ほどで終わってしまう短い時間に起こる連続した動作なので、ある程度極端なイメージを持って動作を行わないと実際の動きに反映されないという事なのではないかと思います。

 バーティカルドロップ+ホリゾンタルタグの一連の動きに最も近いのは野球のバットスウィングです。野球では、構えた時に立てているバットを切り返しで寝かせてそこからグリップエンドを前に向けたまま水平に振って行きますよね?あっ、そう言えば今思い出しましたが、デビット・レッドベッターのAスィングでも切り返しからは野球のバットスウィングの様に振れって言っていました。Aスウィングではバックスイングでクラブをインサイドに引かないで真っすぐ引いて切り返したクラブを後ろに倒してオンプレーンに戻しますが、これはまさしくバーティカルドロップの動きです。デビット・レッドベターがAスウィングを提唱したのが2015年ですから、それより50年以上も前にモー・ノーマンはクラブを後ろに倒す動きの重要性をわかっていたのですね。